『はっきり言って早苗とか引き立て役だろ?』
『野々宮さんと居れば嫌でもそうなるわな〜』
『俺早苗より野々宮さんの方が好みだし』
『確かに林が早苗に優しくしてたのって野々宮さんに近づくためだっけ?』
『当たり前。じゃなきゃあんなブスに優しくしねえし』
蔑んだ笑い声に怒り心頭に発して私はカッと目を見開いた。
しかし私がアクションを起こすよりも早く早苗が地を蹴った。
――――――ダッ!
林くんの言葉を節目に廊下を駆け出す早苗。
(……っ早苗!)
叫びたいけど叫べないもどかしさ。グッと唇を噛み締めて言葉を噤ぐ。ここで叫べば盗み聞きしていた事がバレてしまう。どうしてもそれは避けたかった。
足の早い早苗の姿は既に真っ暗な廊下に吸い込まれて見えない。
恨めしく教室の扉を睨み付けると―――――――私は早苗の足跡を追うよう駆け出した。
――――――――――
――――……
「………っさなえ!」
足が遅いと自覚のある私は追い付く自信がなかった。早苗は校舎から出た可能性が高いと思い校門に向かって走った。
そしたら案の定早苗はとぼとぼと校門に向かって歩いていた。
………よかった。
私はホッとした。もしも早苗が今も本気で走っていたならきっと追い付くどころか姿さえ確認できなかったから。
その背中は哀愁を帯びているけどとりあえずはひと安心。
「早苗!」
俯きながら歩く早苗に駆け寄る。息を切らしながら早苗の腕を掴み「大丈夫?」そう言おうと思った――――――――――――けれどそれは早苗に因って叶う事は無かった。

