牙龍−元姫−






『野々宮さんとか可愛いよな?』




早苗の肩に置こうとした手が空中で止まる。そして私の思考も急停止した。



―……私の名前?なんで?



溢れてくる焦りと戸惑い。





『わかるわかる!あれはヤバいッて!可愛すぎだろ!』

『胸でけえしな?』

『うわ。林んな所みてんのかよ!確かにでけえけどな』








………ッ!?



林くんの言葉に羞恥が隠せなかった。それに賛同する周りの声にも。即座に早苗に伸ばしていた手を胸の前で交差した。その手は微かに震えている。



な、なに?胸って………

皆、そっそんな所みてるのッ?

やっ、やだ!



思わず泣きそうになった。思春期真っ盛りだったこともあって中1にしては成長し過ぎた大きめの胸がコンプレックスだったから。


劣等感の塊で“みんなと違う”事がコンプレックス。私だけ浮いていることに疎外感を感じた。



誰にも相談できなかった。「私の胸可笑しいよね?」なんて言えるわけなかった。しかし耐えきれなくなり唯一相談したのが保険医。



泣きそうに保険室に現れた私に―――――――誰もが通る道だから大丈夫よ?そう優しく笑ってくれたのを覚えている。



でもそれは何ら解決にはならなかった。優しく教えてもらってもこの胸が変わることはない。



だからいま扉越しに言われている言葉がとても私の胸に突き刺さった。男の子からの視点なんて考えた事もなかった。すこし、怖い。