牙龍−元姫−




初めて読んだ本は父の書斎にあった事典。それからは経理や経済の雑誌も読んだ。次々に吸収される知識に苦ではなかった。知らないことを蓄えることに楽しさも覚えていた。



昼休みになるとクラスメイトの子達が我先にとグランドへと走って行くのを気にも留めず私は独り、自分の世界に浸る。



そんな私を見て先生は言う。



『響子ちゃんは随分大人っぽいのね〜?でも子供はお外で元気に遊ぶものなのよ?』

“1人で遊んでも楽しくないじゃないですか”



そう言えたらどんなに楽か。気を使ってくれる先生の優しい言葉は嫌味にも聞こえた。






――――‥実際外で遊びたくないわけではない。でも私は運動能力が極端に低いから。



鬼ごっこをしてもすぐ捕まり大縄跳びをしても10回も続かないのは目に見えている。しかしその前に鬼ごっこをやるにも大縄跳びもするにも人がいなきゃいけない。人は友達。生憎その友達が私にはいない。



だから外で遊ぶ必要も無いし無理して疲れる必要もない。



約10年程度1人で居たから慣れていた。今更友達なんて求めてないし。





―――――だから今日も1人で時間を過ごす。チューリップが咲く花壇に来た私は筆を滑らす。



桜が舞う春の新学期。私がクラスに馴染めていないと間違った解釈をした新担任の先生は私に着いて来た。



この先生は私をクラスに馴染ませようとしているのかな?



馴染めていないと言うのは強ち間違った解釈ではないけど野々宮響子は独りでいるのが普通だから誰も気にも止めない。



でも今年赴任してきた先生がそれを知る由もないので私が仲間外れにでもあっているの?と思っているんだと思う。