事は数分前に遡る







―――――――――――――――――――――――――――――――――――薄暗い夜道。


俺は1人、湿った路地裏を歩く。壊れた街灯がチカチカ光り薄気味悪い。今はこの気味の悪い雰囲気が落ち着く。


蟠りが心を蠢く。自分の変化。周りの変化。少しずつ見え始めた変化に珍しく戸惑っている自分が居る。


改めて考えてみれば神楽坂に入ってからだ。俺の変化は。正しく言うならアイツ等に会ってから――――‥‥






間近で牙龍と響子先輩を一緒に見たのは神楽坂に入ってからだった。どちらも個別でならあったが、セットではなかった。



だからなのか―――――――――ムカついた。近くに居る響子先輩が遠く感じた。


牙龍を思い牙龍を見て牙龍だけを考える。響子先輩の意識を簡単に奪う牙龍が憎い。自ずと意識しなくても無意識に互いの意識を奪っている。


それと同時に理不尽にも、そんな響子先輩に腹が立った。


俺は神楽坂に入るまでは今も此れからもこの先ずっと響子先輩との関係は変わらないと思っていた。それは"友人"。善き相談相手の立場に居ることだ。


でも神楽坂に入った頃から、響子先輩への独占欲が確実に増している俺がいた。


俺だけを見なよ。俺だけを考えて。正に"嫉妬"。それがしっくり来る。俺は牙龍に"嫉妬"していた。


ドーナツ店牙龍が響子先輩と話す俺を睨んでいた。確実にあのとき牙龍は俺に嫉妬していた――――――――同様にあのとき俺も牙龍に嫉妬していた。