「わ、私のこと知ってるかな?」

「……知らないよ」




少し間空け、考える。この子の顔を思い出そうとするが―――――記憶にない。




「えっ?こ、この前絡まれてた所を七瀬くんに助けて貰って……」







―――――――なら覚えてるはずもないや。


君は自分を特別とか思ってる?それならそれは間違いだよ。君は大勢に紛れ込んだ一人に過ぎない。きっと助けたのも偶々。下の奴等と一緒にいたら、下の奴等が君を助けてたよ。


大方そのときの僕は空と居たんじゃないかな?空が女を嫌がって僕が助けただけ…………とか。


まあ。絡まれてるのを見過ごす程残酷でもないしね。







「……あ、あのときは、ありがとう」



顔を赤らめながら俯き両手を胸のまえで絡める女の子。別にお礼なんて要らないのに。只の気まぐれなんだから。




「今度から気をつけてね。じゃあ」




会話を終わらせればすんなりと去れると思っていた。身体を前に向き直すと飲み物を買いに行こうと足を進めようとした…………が。









「ちょ、ちょっと待って!」




着ているクリーム色のカーディガンを掴まれ脚を止める羽目になった――――――――――掴まれたカーディガンを見て目が一瞬鋭くなってしまった。


しかしそれは一瞬。次の瞬間には笑顔に戻したが瞳は冷たいまま。




「なにかな?」

「えっ、えっと……」



冷たい瞳には気づく筈もない女の子。顔を赤らめモジモジと俯く。こっちとしては早く要件を言って欲しいから、珍しく少しイライラしている自分がいた。