牙龍−元姫−






思わず階段で足を止めた。
屋上まであと少しの距離なのに。






泣きそう?

俺が?





何の涙だよ。何で今更泣くんだよ。可笑しいだろ、響子が牙龍から居なくなっても泣かなかったのに何で今なんだよ…!




後悔?喪失感?


違う、


これはただの








「……情けねえよな」





俺自身の自己嫌悪。




身勝手な自分に自嘲的な笑みが零れた。


勝手に自己暗示して響子が悪いと決めつけ悪罵した挙げ句の果てに響子への気持ちに変化が現れ、身勝手な気持ちが芽生えつつある。






「何が?」



戯けて泣きそうだ、なんて言った寿々。同じように俺と立ち止まり数段上から見下ろしてくる。


只でさえ身長差がねえのに完全見下ろされてムカッときた俺は剥きになり強く踏み込み階段を登り出した。






「何でもねえし馬鹿寿々!」

「馬鹿とは何だ!馬鹿とは!って。ちょ、ちょっと待ってよ!」

「待つわけねえだろ!」






流す事はない溜まった涙は当に引っ込んだ。いつも通りのハイテンションの寿々には少しだけ感謝した、ほんの少しだけだけど。


照れ隠しのように階段を走る脚はさっきよりは軽かったのは死んでも言ってやらねえかんな!