返事をする気力も無かった。

ただ、しま子の腕の中で、ぼんやりと霞む頭と心を落ち着かせる。


「天内の娘よ」


奥方の声が聞こえてきた。

静かで、落ち着いた声。


なんだかずいぶん遠い声のような気がする。


「そなたの祖父はこの地より追放された。その後すぐに妻をめとった」

「・・・・・」

「そなたの祖母じゃ」

「・・・・・」

「分かるか?」



まるで感情の無い、淡々とした、響き。


「そなたの祖母も、父も、むろん、そなた自身も、天内 直にとってはただの道具。門川 永世への愛を成就させるための『捨て駒』よ」