門川君は黙ってしまった。

しばらくそのまま沈黙して・・・

不意にあたし達に背を向けて歩き出した。


「門川君っ?」

「僕は先に戻っている」

「えっ? あ、あの・・・?」

「君達は絹糸に案内してもらうといい」


振り向かずにそう言い残して、彼は足早に庭木の向こうに去ってしまった。

あ~、門川く・・・。

・・・・・・・。



グイッ!っと絹糸と鼻先同士をくっつける。


「ほらあっ! 門川君、怒っちゃったじゃん!」

絹糸のせいだからね!

あんな話されたら誰だって怒って当然でしょ!


「あれは別に怒ったわけではない」

「怒ってるから行っちゃったんじゃんっ」

「事情を話せ、という事じゃよ」

「へ?」

「自分の生い立ちを、お前に聞かせてもよい、と言うておるのじゃ」

「・・・・・?」

「自分では話したくはないんじゃろうよ」


ぷらんっとぶら下がったまま、絹糸がコシコシと顔を洗った。


「自分が今置かれている、複雑な状況をのぉ」