そもそも水飲みに道場を出たんだよ。水っ。

なのに狐と遭遇するわ、お母さんから逃げ出すわ。

なんでこーなんの??

この屋敷って、おちおち水も飲んでらんないのね。


「ノド渇いた~っ。水~、水分~っっ」

「こっちだ。来い」


門川君があたしの手を引いて、渡り廊下から中庭に降りた。

そして大きなゴツゴツした黒い岩壁の前に立つ。


ん? 水音・・・?


サラサラと流れる音が聞こえる。

水の流れの持つ、あの独特の湿度と清涼感も感じる。


どこ? すぐそばで聞こえるのに。

水なんてどこにも見えない。


「ここだ」

岩の隙間の何もない空間に門川君が両手を差し出す。

そして、すっと手を戻すと・・・


「わあっ!?」


彼のお椀のように丸まった手の中に、透明に輝く水がたっぷり入っていた。

すごい!!

いったいどうやったんだろ!!


「この水は生き物にとても効用がある水だ。飲むといい」

「どうやって?」

「僕がやった通りにやってみろ」


門川君はそう言いながら体をかがめた。

絹糸が美味しそうに彼の手から水を飲んでいる。