指定された時刻ちょうどにホテルに行くと、小柳君は既にいて、ロビーのソファーに悠然と脚を組んで座っていた。

 真夏だというのにキッチリとネクタイを絞め、ダークグレーのスーツを着ているのは、彼が営業だからだろう。


 近付いていく私に気付き、小柳君は立ち上がると、薄笑いを浮かべながら、「時間通りですね」と言った。私は言葉を返す気になれず、白々しく挨拶する気にもなれず、黙って彼を睨みつけていた。


 すると小柳君は、薄ら笑いを苦笑いに変え、


「部屋を取りましたから、行きましょうか?」


 と聞いてきた。もし私が嫌だと言ったらどうするんだろう。


 一瞬だけそう思ってみたものの、私は小さく頷いた。

 私はここに来るまでに、既に覚悟ができていたから。