「高校の時は、一回きりのキスで勘弁しちゃったんですよね……。覚えてますか?」


 私は微かに頷いた。あれを忘れるわけない。だって、私のファーストキスだったのだから。


「あの頃の僕はうぶだったからなぁ。キスなんて初めてなんで、すごく緊張したんですよ?」


 へえー、この子のファーストキスでもあったんだ。なんかちょっと、救われた気がする。


「あの頃の僕はあれが精一杯で、もっとあなたに纏わり付く勇気がなかった。後で後悔しましたけどね」


 私もそれが意外だった。そして私は、小柳君は案外いい子なんじゃと思ったんだけど、大きな勘違いだったわけね……


「でも、今の僕はもううぶじゃありませんよ。それは志乃さん、あなたもですよね?」


 なんだか小柳君に私の男性遍歴を言われたみたいで、私はカーッと頭に血が上ってしまい、


「もう能書きはいいから、さっさとやりなさいよ!」


 と怒鳴ってしまった。