奴は、何も言わなかった。 まさか、あの立花が、と歩きながら思う。 一つ、聞いてみたいとは思った。 奴はどのような心境で光の始末を提言したのだろうか。 立花は公私の感情を混同することなく、感情を制御している。脱走した光に足りなかったことは、恐らくそれである。 ただ、苦しんでいるのは自分だけではないのだろう。実際には、立花も奴なりに昔と今の関係の変化に苦しんでいるのではないか、と感じた。 光は自分の手を見下ろす。 身体は夜風で冷めていくのにも関わらず、手だけは僅かな温もりがあった。