新撰組のヒミツ 弐


光は歯噛みして後退り、それを交わした。どうにかこの状況を打破する方法を考え出さなくてはならないというのに、何も思い浮かばない。


他の隊士などの助太刀があればこの男を捕らえることができるかもしれないが、この男は光の後ろ暗い過去を知る者として、非常に都合の悪い存在だ。


たとえ新撰組に捕まったとしても奴が簡単に口を割るとも思えないが、もし自分の命惜しさに口を割れば悪夢である。


自分の立場をこれ以上危うくしたくない光にとって、奴がこの場から逃げ出すのに期待するか、ここで光が命を奪うかのどちらかしかない。


前者は新撰組を裏切ることになり、後者は今の光にとって現実的ではない。


焦りを押し隠していると、立花は舌打ちをして素早く鞘に刀を収め、窓に寄って外を見た。


「流石にこれ以上は遊んでられないようだ」


隊士たちが階段を上がってくる音が聞こえてきた。下の戦闘が終わり、残党を探しているらしい。流石の立花も加勢があれば不利だと思ったのだろう、逃げる算段をつけ始めた。


光は体の痛みを堪えながら立花を睨んだ。


「下は新撰組隊士と会津藩士たちが取り囲んでいる。鼠一匹逃げ出す網の隙間はない。たとえ二階から降りても無駄だ」


その言葉に立花は不敵に笑った。


「易々と捕まると思うか、馬鹿め。俺が素直に降りるわけないだろう」


立花は窓枠に足をかけて、「じゃあな」とあっさり別れを告げた。瓦屋根を踏みながら隣の建物の屋根伝いに逃げ去っていく。


「猿みたいなやつだな……」


殆ど体の限界を迎えていた光は、呆れながら奴の姿を見送るしかなかった。もう二度と会いたくないものだ、と光は奴の去って行った窓枠を忌々しく思いながら見つめていた。