セイドの悲しげな笑顔にシーファはわけが分からなくて、思わず眉をしかめた。

「名前を捨てた、と言ったな?それはトイスには戻らないということかね?」

「そのつもりです。私は自分の生きたい道を見つけたんです。」

「血の繋がりはないとはいえ、20年、家族として過ごした者達を簡単に捨てた、そうまでして見つけた道とは…」

「簡単なんかじゃなかった!たくさん…たくさん悩んだんですっ。
でも…それでも海に出たかった…」

シーファは強く拳を握った。何も知らないのに、そんなことを言われて悔しかった。

「すまない…
しかし、私は嬉しい。
お前が、海を愛していてくれて…」

「…………一体、何が聞きたいんです?
私が海を愛しているからといって、なんです?」

「心から嬉しいの。あなたの血は、海を求めて、戻ってきてくれた…
やはり、あなたは私達の娘に違いないわ。」

耳を疑った。
娘?…誰が?…誰の?
呆然とするシーファをアリアが優しく抱き締めた。

ふと、脳裏に浮かぶ懐かしさ…安らぎ…暖かさ…
それらは間違いなく母親が子供に与えるものだった。

「―――っ!!!
嘘よっ、そんなはずない、私は…私は…」

アリアを突き飛ばして、シーファは頭を振った。
手が、膝が、震える。

「間違いない。
お前は私達の娘、正統なるこの海の皇国の皇女、シルフェリアだ。」

セイドの真っ直ぐな言葉と視線に射抜かれたように、シーファはその場に座り込んだ。
アリアが隣に座り、支える。

「…この胸の紋章は…」

紋章を掴むように胸に手を乗せる。
セイドは静かにうなずいた。

「その紋章は我が王家一族の証。
あの神殿は紋章のある一族しか開けることは出来ない。その紋章を持ち、あの神殿を開けたのが皇女である紛れもない証拠だ。」

「………………じゃあ、なぜ私はトイスに?
私は…捨てられた…の?」

アリアがシーファを強く抱き締めた。

「そんなはずはありませんっ!ずっとこの腕に抱いていたかった…でも…」

アリアが泣いている、肩に触れる暖かい涙でそれが分かった。