「腕、痛くない?」
ロイが触れたアレンの腕は、擦り傷ができ、紫色に晴れている。
階段を転げ落ちた時に、思いきり打ってしまったらしい。
下敷きになって落ちたロイにたいした怪我がなかったのは、単に体力と、偶然当たりどころが悪くなかったおかげだろう。
アレンを先に行かせていれば、彼女がこんな怪我をしなくて済んだかといえば、そういうわけではないのだ。
それでも、そうわかってはいてもロイは、痛々しげに顔を歪める。
「……たいしたことねぇよ、こんな傷」
「嘘吐いてんじゃねーよ」
「お前だってぶん投げられてたろ。怪我は」
暗い路地裏で、緊張の糸がぷつりと切れたように、静かに言葉を交わしていた。
ロイは、手首を掴んでいた腕を伸ばす。
アレンの傷に触らないように、自分の怪我にもできるだけ触れないように、アレンの体を腕に閉じ込める。
ロイは、アレンやレベッカが怪我をすると、時々そうして、慈しむようにして抱き締めることがあった。
恋愛でも友愛でもなく、父性愛や兄弟愛とも少し違う、よくわからない愛情表現。
それをアレンやレベッカは、何も言わずに受け入れなければいけないような気がしていたのだ。


