――ガシャアアアァァァ……ン
ガラスの割れる音。
悲鳴。
大男は、想像していた痛みや衝撃が腹に来ないことに気付いて、はっと後ろを振り返る。
そこには、吹き出す水が、勢いよく迫っていた。
宿の一階、窓に面して据えられた、巨大な水槽。
それこそが、この宿が高級であることの証のようなものだったのだが、アレンは咄嗟に男の腹から、そのガラスへと照準を逸らしたのだ。
水の勢いに足を取られて、倒れ込む。
それぞれが大男の顔ほどもある珍しい魚たちが、水と一緒にぶつかってくるのが、煩わしい。
大男は、顔を上げる。
そこに、二人の泥棒の姿は、なかった。


