荒い息遣いが、路地裏にこだましている。

建物と建物の間、道とも言えない道を抜け、通りを横切り、裏道を息急ききって走る男は、時々ちらちらと背後や頭上を振り返っていた。


なにかいるのだ。

黒い影がさっきからずっと、視界の端をうろちょろと動いている。
それは行く先の物陰だったり、後ろのビルの高いところだったり、真横の窓ガラス越しだったり。

とにかく、なにかいる。


追いかけられ、追い詰められていることはわかっているのに、姿が見えないことに苛立って、男は冷静な判断力をなくしていた。

いや、もともとそんなものは持ち合わせていなかったのかも知れない。
そうでなければ、そもそもこんなふうに逃げる羽目にもならなかったはずだ。