「……ちょ! いってぇ」
「いてぇんじゃん、やっぱ」
アレンの頬にある真新しい傷を、指でつついたのだ。
それは今朝ついたもので、さっきの喧嘩の原因とも言えるものである。
ロイは、眉を寄せて唇を尖らせた。
アレンも同じような顔をする。
しかしすぐに、可笑しくなって噴き出してしまった。
「ガキの頃の、喧嘩した次の日みたい」
「あー、あったね、よく。二人して体中痣だらけになって」
「レベッカに手当てしてもらってさ」
「泣きながら怒られたね」
いつの間にか、笑いながら話せるようになっていた。
けれど、あの頃が過去の出来事になったような気は、なぜかしない。
過去にする必要はないのだ。
立ち直る必要も、やはりない。
隣から、ロイの「ねぇ」という声が聞こえた。


