レベッカ




ぼうっと風に当たるロイの隣に、アレンが並ぶ。
屋上に出るとなんとなく、口喧嘩を続ける気は失せるのだ。

アレンも同じように、風に顔を向ける。
頬の下あたりで揃えられた前髪が、顔にかかる。

それを眺めながら、ロイは口を開いた。


「……伸びたね」
「ん?」
「髪。なんで伸ばしてんの?」
「え、いや、別に」


アレンは、答えに困って、視線を遠くにやった。

シガテラの町が見える。
あの二番街の宿は、そういえば、近々改装するらしい。
あの晩アレンが割った大きな水槽は、そういえばどうなったのだろうか。


(……“あの晩”)


なんだかいつの間にか自然に思い出している自分に気付いて、アレンは不思議な感覚に襲われた。

なんだ、ちゃんと、できるじゃないか。そんなふうに。
だからか、アレンは、言った。


「レベッカが」
「え?」
「髪長かったから。……なんとなく」


ロイは、瞬きの間だけの沈黙のあと、「ふぅん」と鼻を鳴らした。
そして、手を伸ばす。