その頃のロイは、笑っていた。
挑発的な笑みを浮かべて、口の端を流れる血を舐めとる。


「ひどい言いがかりだね。冗談だったら相当面白いよ」
「冗談かどうか、まだわからせてほしいか?」


高圧的な視線が浴びせられる。

ロイは冷たい鉄の床に座らされ、腕を後ろ手に曲げた状態で柱に縛られていた。

腕を伸ばすことができれば縛られたままでもなんとか抵抗できそうだが、そこはさすがにさすがというべきか、発砲対策は完璧だった。

廃工場かなにかだろうか、がらんとなにもなく屋根の高い建物だ。
何を作っていた場所なのか、壁にも鉄板が貼られていた。


「大将自らお出ましですか、勤勉なこった」
「ロイ君、君の優秀さに敬意を表しているんだよ。だが残念だな……君がピースフォースに入り込んだ、隣国のスパイだったなんて」


ロイは、小さく溜め息を吐く。
言いがかり以外の何物でもない理由で、今ロイは捕らわれていた。