「平気だよ。なに情けない顔してんの」
「んな顔してねーよ、バカ」
「怒ってんの? 昨日のこと」
「な、」
「ごめんね」
「お前っ、ふざけんじゃねーよ……っ」
絞り出すような低い声に、ロイが苦笑する。
アレンは、苛立たしげな溜め息を吐いた。
茶化されるのも、謝られるのも、いやだった。
ロイにとっては、こんなふうに茶化して話題に出す程度のことで、謝るようなことで、アレンに睨まれて苦笑するようなことだったのだ。
「ま、とにかく、言ったからね」
「は?」
「じゃ、お大事に」
「おい、」
ロイはアレンの声も無視して踵を返すと、そのまま去って行った。
後ろ手にひらひらと振られる手を見て、アレンは一人ごちる。
「あのバカ……なにしに来たんだよ」
まさか、あんな「ごめん」を言うためだけに、わざわざ用事のない医務室の方まで来たわけでもあるまい。
ふとアレンは、自分が壁に寄りかかるようにして立っていたことに気付いた。
無意識に、ロイから離れるようにしていたのだ。
ロイとの距離の測り方がわからなくなるなんて、今までではじめてのことだった。
俯いて、壁を睨み付ける。
今鏡を見たら、きっとロイが言った時よりも情けない顔をしているに違いない、と思った。


