雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「月夜様……」

 騒ぎを確かめようとイシャナに背を向けた月夜は、いきなり後ろから抱き止められ身体を硬直させた。

「な、なにをする…離せっ」

 イシャナは阿修羅に脚を噛みつかれながらも、月夜をきつく抱きしめてくる。

「行ったらあきまへん。もし行ったら貴方は……」

「離せ!」

 一度はイシャナから逃れるが、腕を掴まれ壁に背中を押しつけられた。

「どうしたらええんや……どうして貴方を止められます? 月夜様……あかん。俺は貴方を――」

「イシャ……っ」

 身体中の血液が凍りつくような衝撃が月夜を襲った。
 自由を奪われ、覆い被さってきたイシャナにくちびるを塞がれる。
 一瞬なにが起こっているのかも理解できず、月夜は大きく目を見開いていた。

「うぎゃうっ!」

 阿修羅の叫び声が、さらに月夜を驚かせた。
 どこから現れたのか、植物の蔓のようなものが幾重も阿修羅の身体に巻きついている。
 どれだけ蔓を噛みちぎっても、あとからあとから生えてきては、どんどんその身体を包み込んでいく。
 しだいに力を失っていく阿修羅を見て、月夜は恐ろしくなった。

――ボクはまた…大事なものを失うのか!

「は……なせっ! 馬鹿者!」

 顔を背け、イシャナを押し退けようとあがいた。
 しかしそれでも、掴まれた腕はかたくなに動かない。
 顔をあげ睨みつけた瞳が、憐れみの表情で月夜を見下ろした。
 こうしている間にも、阿修羅は弱り続けていく。

「月夜様……俺と一緒に」

「いい加減にしろっ、どういうつもりだ。お前、私を慰み者にでもするつもりか、無礼者!」

 月夜の言葉に刹那、腕を押さえる力が緩んだ。