雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「戯れはそろそろ終わりにしよう、イシャナ。この7の月が沈むまでのあいだ、私が執務だけをしていたと思うか?」

 月夜の鋭いまなざしに、イシャナは肩をすくめる。

「なんですの? そないな恐い顔して。せっかくのかわいい顔が台無し――」

「ひとつ! 訊きたいことがある。白童様の館に来たとき、お前はこれを残していったな」

 手にした寄贈書をイシャナの前にかざす。
 刹那それを眺めると、彼はぽんと手を打った。

「あぁ〜せやせや。それ、俺も読んだことありましてん。懐かし思いましたん…や?」

 建国の物語を綴った頁を開き、ずいと見せつける。

「これを私に教えたのはなぜだ? この話にどのような意味がある? そしてお前は……本当にナーガの役人か?」

 笑みを崩さないイシャナの顔は、不気味なほど静かだ。

「…訊きたいのはひとつだけやなかったんですか?」

「さっさと答えろ!」

 青筋をたててがなる月夜を尻目に、ヒョイと書物をつまんだイシャナはそれを後ろに放り投げた。

「なにをする!」

「ええですよ……月夜様が俺の願い、叶えてくれはるんやったら……」

「ね、願い……だと?」

 イシャナが含みのある笑みを浮かべる。
 しかしそれに反発した月夜は、いきなり無謀な賭けに出た。

「阿修羅!」

 呼ばれて姿を現した獣が、即座に獲物に飛びかかった。

「……っわ!」

 派手な音をたてて、イシャナは床に縫いつけられた。
 荒い息を顔に吹きかけられ、見上げた獣に瞠目する。

「魔の……式」

「真面目に答える気になったか? しかしなぜだ? どいつもこいつも、私になにかをさせたがる。どうだ? 私の質問に答えれば、命は助けてやるぞ」