心を強引にひきつけられるような奇妙な感覚。
 月夜は神経を研ぎ澄ました。

――何者かが…このガルナに向かって思念を飛ばしている?

月夜が幼いころから感じていた視線とは、似て非なるもの。
 まるで腹の底を探られている気分だった。

「なんだ……まさか魔物? いや、そんな禍々しいものじゃない」

 それよりもっと、どうにも抗いようのない…。

「あ……」

 糸が切れるように、気配が止んだ。
 それでもまだ、余韻が身体中に波紋をひろげる。
 そのあまりにも清廉じみた感覚に背筋が震えた。

「……神……」

 ふと声にして口をつぐむ。
 月夜は霊山で出逢った、女人の神を思い出していた。
 尊大だが威厳に満ち、見る者の心を奪い尽くすまでに神々しいあの存在。
 もしかすると、これはそんな――。

「しかしなぜ、このガルナを?」

 たとえ神の仕業だとして、その理由がわからない。
 月夜は胸の奥に咲いた不安の花を、摘み取ることもできずふたたび歩き出した。

 迎賓の館にたどり着くと、イシャナが寝起きしている部屋の前で、見張りの者が月夜に気づき低頭する。

「なにか変わったことは?」

「はい、ありません。静かすぎるほどです」

 月夜はうなずくと、扉の向こうにいるはずのイシャナを呼んだ。
 ややあって、中から扉が開かれる。
 イシャナの顔が見えると、すこしばかりホッとした。
 これで疑問をひとつ、解くことができるかもしれない。
 迎え入れられるままに、月夜は疑いもなく部屋へと脚を踏み入れた。

「……月夜様がこないなとこまで来てくれはるなんて、俺に逢いたくなった……ちゅうわけではないですやろな?」

 月夜の顔を見て、イシャナは苦笑った。