雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 阿修羅の目が、らしからず見開かれ、すぐに獣のそれに戻った。

「頑固なところも受け継いだか…」

 つぶやいて、のそのそと月夜から身体を退けると、お座りの姿勢でひとつあくびをする。
 やれやれと後ろ足で頭を掻く雪から、月夜は這いずりながら離れた。
 破かれた胸元を手繰り寄せると、改めてその惨状に気づかされる。

――これではまるで、蹂躙された生娘みたいじゃないか!

 沸き上がった屈辱感に顔を赤らめ、月夜は怒りに震えた。

「お、お前なんか…絶対ボクに服従させてやる…」

 その言葉を訊いて、雪はフンと鼻を鳴らした。

「出来るものならな」

 そのひとことで、雪の気配が阿修羅から消えた。
 もとの愛くるしい撫で声がした途端、月夜はばったりと床に伏した。

「なぜ……なぜこのボクが、あんなやつにいいように……」

 肩を震わせながら、力一杯こぶしを握りしめ、月夜はにじむ涙を振り払った。
 その様子に阿修羅が擦り寄ってくると、慰めようとでもいうのか、ペロペロと頬を舐めてくる。
 胸がキュッとした。

「阿修羅……ボクは平気だ。ありがとう、心配してくれて」

 彼はうにゃんと返事をすると、それからずっと月夜の傍から離れようとしなかった。

――いまは無理でも、きっとお前をボクのものにしてやるからな。

 その後謹慎がとけるまで、月夜は始終阿修羅とともに過ごしたが、あれから雪がでしゃばってくることはなかった。

――ホッとするやら、不気味やらだな。

 結局どこまでいっても、月夜の疑問は尽きることがない。
 しかし、月夜にとってその解決法は、あまりに屈辱的すぎる。
 気づけば自分が、絶えずあの魔物に気をとられていたことを、月夜は激しく後悔した。