雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「ボクがあいつより強ければ……お前を手に入れられるのか?」

 月夜は阿修羅の身体を強く抱きしめた。
 伝わる暖かさに、訳もわからず涙が溢れる。
 おとなしくしていた彼が、不意にみじろいだ。

「また泣いているのか?」

「……おまっ……」

 驚いた月夜は阿修羅から顔をあげる。
 獣の顔に、らしくない表情が浮かんだ。

「そんなに泣いてばかりでは、俺からこれを奪うことなぞできないな」

 つぶやきをきかれていたことに、月夜は顔から火が出そうになった。
 慌てて阿修羅から身体を離す。

「な、なにが…っ…そんなの、ボクがもっと強くなれば…」

「無理だ」

 云いきった雪に、月夜は眉尻をつりあげた。

「そんなことはわからないだろう! これでもボクは月読だ。これからいくらでも…」

「月夜」

 トンと軽く後ろ足を蹴った阿修羅が、月夜に飛びかかった。
 いきなりのしかかられて、床に倒れ込む。
 月夜は背中を思いきりぶつけ、息を詰まらせた。

「……っ……」

 苦し紛れに薄目を開けた月夜の瞳に、阿修羅の姿で牙を剥く魔物が飛び込んできた。
 あの穏やかな獣はそこにはいなかった。
 殺意を孕んだ唸り声をあげる雪を、言葉もなく月夜は凝視した。

「……いますぐお前のその首筋に牙を突き立てることは雑作もない。それでもこいつを手に入れたいなら……他の方法を試してみるか?」

「ほ…他の、って…」

 小さく呻いた月夜の胸元が裂けた。
 襟を噛み千切られ、女のようにか細い身体が露になる。

「な、なにをする!」

「お前がふたたび俺と契りを交わせば、俺の中に残るこれの魂はお前に移せるぞ。どうだ?」