雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「貴方と帝が親密やゆうんは、部外者の俺の耳にも届いてます。そのせいで、いらん敵意を持たれたりしとるのも……ずっと、それを甘んじて引き受けとった貴方を、俺は見てました」

 月夜は振り払うように云い放った。

「それがなんだ! お前などに同情されるいわれはない。殺すのか殺さないのか、さっさと白状しろ!」

 殺気立つ月夜に、やれやれと嘆息したイシャナは、その首から手を離す。

「白状って、ホンマに何もしてへんですから。だいたい帝を襲ったのが俺やったとして、どんな利益があるゆうんです?」

「そ、それは……」

 云いよどむ月夜にイシャナは背を向けた。

「月夜様は疲れてはりますんや…ホンマに無理せんと、休んどって下さい。いくら下っぱの仕事やかて、月夜様は側使やないですか。そないに自分追いつめて…何から逃げとるんです?」

 月夜の思考はピタリと止まる。
 逃げているつもりは毛頭なかった。
 いや、考えようとしなかったのは逃げたかったからなのか?

――けど、いったい何から逃げようなどと?

「私は逃げてなどいない……そのようなことで私を惑わそうとしても無駄だ。お前の疑いが晴れたわけではないぞ! もし少しでもおかしな動きをすれば、すぐに拘束する。わかったな」

 それは虚勢であったが、月夜は完璧に装ったつもりだった。
 たとえ帝を狙う者でなかったとしても、異邦人である以上可能性は否定できない。
 なにしろ帝の崩御から続いた悲劇は、イシャナの登場とともに訪れているのだから。

「……わかりました。しばらくはおとなしくさせてもらいます。せらから、月夜様も――」

「早く部屋へ戻れ! お前には見張りをつける」

 イシャナはすごすごと月夜の部屋を出ていった。