雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「確かに……ここでは俺は部外者やな……そやけど月夜様。そういう貴方はどないなんです?」

 月夜は微かに動揺を走らせた。
 見た目を考えれば、それは否定しようがない。
 しかしそうではなかった。
 イシャナの言葉は、それよりも深いところをえぐるように月夜を揺さぶる。

「どないしはりました? そないな顔して……あ、もしかして気にしてはりましたか、自分がこの国の人間やないと」

「わ、私は歴としたガルナの月読。そのようなことで……」

 壁側に追いこまれ、月夜は肩をすくめた。
 立場がまるで逆だ。
 窮されているのは明らかに月夜だった。

「もし……ホンマに俺が帝をどうにかしよ思てるとしたら……どうするおつもりですの? 月夜様」

 顔を近づけられ、月夜は目を逸らす。
 真っ直ぐにのぞきこんできた彼の瞳に、自分が抱えているものを晒されているような気がした。
 お前は人間じゃない。
 お前は帝に相応しくない…と。

「ほ、本当にそうではないのか?」

「……せやったら月夜様。貴方、ここで俺に殺されるかも知れへんのですよ。そないな無防備で……ええんですの?」

 イシャナの手が、月夜の細い首筋に伸びてきた。
 ピクリと反応するが、なぜかそれ以上動けない。
 いまの月夜には、危機にかけつけてくれる阿修羅もいない。
 だからといってあの男に助けを乞うなどできるはずもなかった。

――己でまいた種子…。

 月夜はその赤い眼差しを正面に向けた。

「殺したければそうしたらいい。そのかわりこちらも容赦はしない。帝は命に代えても私が守る!」

 声高に宣言した月夜を見るイシャナの目が、哀しげに細められた。

「帝を……そないに好いてはるんですか」

「な……に?」