雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「本当か!」

 雪の言葉に反応して声が出てしまった。
 考えたこともなかったが、人間ではない自分などとても受け入れられそうにない。

「……だが」

 続いた科白にびくりと身を引くと、雪が獣の顔で云った。

「虫だと云うなら虫かもしれん」

 沈黙が二人の間を通りすぎる。

「去ねっ!」

 飛んできた書物をヒョイと避けた阿修羅は、空気に溶けるように消えてしまった。
 ハッとして月夜はうなだれる。

「逃げられた……」

 なぜかいつも最後まで、重要なことが訊けずにいる自分を呪った。
 それにしても雪の目的がさっぱりわからない。
 まさか自分を喰いたいがために、わざわざ他から守ろうなんて面倒をするとは思えない。

――それに、あの記憶…。

 美しい人が彼に云った言葉。
 あれはつまり、月夜を助けてくれということ。
 雪はその願いを果たすために、たびたび月夜の前に現れたのだ。
 だが彼の本心は、そこにはない…。

――では、あの人はいったい?

 ますます頭が混乱する。
 雪のことも、美しい人のことも、あんなものを見ても結局なにひとつ真実が伝わらない。

――しかし、他にもいろいろ見たような気がするんだけど……思い出せない。

 月夜は寝台に突っ伏し、ため息をつくと、睡魔に急襲されるまま意識を手放した。



「あかん…この寝顔は反則ちゃうやろか?」

 不意に頭の上から声がきこえて、月夜はまぶたを震わせた。
 たしか自分は謹慎を云い渡され、部屋に戻っていたはずだ。
 なのにすぐそばで声がする。

――しかもこの声は…。

 いやな予感がして、月夜は恐る恐る目を開けた。