雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「なんという…」

 月夜はこめかみに指を指し、柳眉を寄せて呻いた。
 寝台の上では、阿修羅…の姿をした雪が、呑気に後ろ足で首を掻いている。

「俺自身が近づくのが駄目なら、これしかないだろう」

――そういうことではない筈なんだけど…。

 そうは云っても、今さら阿修羅が元の式に戻ったところで、雪と繋がっている事実が消えるわけではない。
 いつまた気づかぬうちに、すべてを見られているかわからないのだ。

「……まて。もしかしてお前、はじめに阿修羅をボクに着いていかせたのは最初からこのために……?」

「違う。これが自分から行きたがった。だからついでに守らせた」

「ついで…って」

 四つ足の雪が立ち上がり、ぴょんと月夜の肩に飛び乗った。

「そのお陰で、お前は奴らの胃袋におさまらずに済んだ」

 その云い様に不快感を覚え、雪を捕まえようとしたが逃げられる。

「それで……なぜボクを守らせる必要がある? つまり……ボクとお前の、関係は……」

 月夜はようやく訊きたかったことを口にできた。
 本心では訊くのを避けたがっていた。
 どんな答えが返るのか想像もしたくなかった。だがなんとなく自分はそれを知っている気がしていた。

「……それを知って、どうしたい?」

「どうしたいって……そんなの。ボクは、見ての通りガルナの人間じゃない。いままではそれでも気にしなかった! でも……あの記憶が本当なら、ボクは……人間じゃ、ないのか?」

 両手で自分を抱きしめた。
 震えが止まらない。
 己が何者かわからないということが、こんなにも恐ろしいとは…。

「お前が人間だと云うのなら……間違いなくそうだ」