雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 太陽が地表を這う頃、月夜はようやく宮に帰りついた。
 宮ではそのことでちょっとした騒ぎになっており、月夜はすぐに釈明をしなくてはならなかった。
 だが何より先に、十六夜に事情を話し、暗殺者の可能性と対策を進言するために、帝の執務室へ向かう。
 扉が開かれてすぐに、月夜はふたたび後悔した。

「月夜……そなた、無事であったのじゃな」

 たった一日離れただけだと云うのに、十六夜の様子は見るからに変わり果てていた。
 執務室はすでに人払いがしてあり、あの近衛が一人だけ。
 執務室の中ですがりついてきた十六夜を、月夜はおずおずと抱きとめた。

「ごめん、十六夜。お咎めはあとでいくらでも……訊いて欲しいんだ」

 心なしか頬が削げ、血色のよくない顔を上げると、十六夜はコクリとうなずいた。

「ボクは昨夜、後宮の庭で怪しい人間を見たんだ。そいつは式を操り、霊山に入っていった。ついていったら、その者が……神山への境界線を越えた」

 十六夜は瞠目した。

「なんと……そなたもまさか、それについていったのではなかろうな! 神山は危険なところじゃ、戦闘の経験もないそなたが行って易々と帰れる場所ではないのだぞ!」

「……わかってる。でも、それが本当に暗殺者なら、正体をつかめば十六夜を守れると思って……」

「大馬鹿者! あれほど関わるなと云っておいたものを、そなたは……そなたは愚か者じゃ。余の勅命を無視するなど――」

 十六夜はずるずると膝を折った。

「十六夜っ……本当にごめん、すぐに戻るつもりだったんだ。でも……神山に入った途端、見たんだ……十六夜は知らないだろうけど、あそこは神の国だと思った」

 十六夜を通り越した遥か彼方を、月夜は見つめていた。