雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 いつのまにか身ぐるみ剥がされていた月夜は、ボロボロになった自分の衣服をみつけて青ざめた。
 見るも無惨に引き裂かれたそれは、負った傷が容易に癒えるようなものではなかったことを物語っている。

――あいつがいなければ、今頃ボクは…。

 小屋の外で、辺りの気配を窺っている魔物を盗み見ながら、月夜はふつふつと沸き上がる罪悪感を否めずにいた。

――本当に、ボクはいったい何をしているんだ…。

 追いかけてきた暗殺者とおぼしき人物は捕らえられず、危険とわかっていながら神山に飛び込み、式を蹂躙され自らは死に至る大怪我を負わされた。
 しまいには、よりにもよって魔物などに命を救われ、その代償として喰われることになろうとは…。

――ボクはなんという愚か者か。

 うなだれた月夜の目に、手のひらでいまはまだピクリともしない、小さな阿修羅が映る。
 心なしかホッと気をゆるめて、そっと頬に近づけた。

――暖かい。

 魂の温もりが、彼の存在に確信をもたらす。
 せめて阿修羅を失わずに済んだことに、月夜は安堵のため息を吐いた。

「用意はできたか」

 入り口の扉の前に立つ、大きな影の輪郭に顔を向けると、月夜はしっかりとうなずいた。
 陽の傾きかけた空は、薄くたそがれている。
 問答無用で雪に担がれ霊山の外に連れ出された月夜は、そこで叉邏朱を召喚した。

「お前も…無事であってよかった…」

 羽を撫でてやると、叉邏朱はクルクルと喉をならした。
 その背に跨がり、自分を見上げる魔物に月夜は頭を下げた。

「結果はともあれ、助けられたのは事実。一応、礼は云う……阿修羅のことも」

 叉邏朱が翼をひとふりする。
 その身体は月夜をのせて舞い上がった。