雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 雪の前で散々泣きわめいた月夜だったが、しばらくして落ち着いてくると、急に自分のしたことを後悔しはじめた。
 幼子ならいざしらず、とうに元服も過ぎた、月読ともあろう者が、人前でわんわん泣きじゃくるなど、恥ずべき行為である。
 しかも思い出してみれば、月夜がいま着ているのは雪の羽織衣のみ。
 ハッとして上げた泣き顔をまともに雪に見られた月夜は頬を赤らめた。

「み、見るな馬鹿!」

 月夜は思いきり雪を突き飛ばした…つもりだったが、なぜか自分が吹っ飛んだ。

「ぅわっ……あ……」

「何をしている。傷は消えたが、身体はまだ十分じゃない。無理をするな」

 仰向けに倒れ込みそうになった背を抱き支えられ、うっかり衣を押さえていた手が外れる。
 脱げかけたそれを慌ててたぐりよせ、思わず文句を云おうと見上げた月夜は口を開けたまま動きを止めた。
 自分を見つめる瞳のなんとも云えず深い色。
 そこに、阿修羅と同じ、月夜を暗に気遣う気配が感じとれた。
 同じ闇の種族ゆえだろうか?
 阿修羅と雪にはどこか似た雰囲気がある。

――魔物のくせに…なぜ、そんな目をするんだ?

「やはり……お前は面白い」

 その言葉で我に返った月夜は、雪の腕をはねのけ眉をつり上げた。

「ボクは確かに命は救われたが、契約が履行されないうちは、お前の玩具になる気はないっ!」

「……契約?」

 雪がキョトンと目を丸くする。

「望みを叶える前に喰われては困るからな。だからお前はそれまで、ボクに近寄るな!」

 ゼイゼイと息を切らし、月夜はポカンとしている雪を牽制した。
 ガリガリと頭を掻き、 彼は何かを思案すると嘆息して口端を歪めた。