雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 脳裏に浮かんだ十六夜の姿に揺れた感情の隙を突かれ、心の隅々まで雪に暴かれてしまう。

――ぁあ…っ!

 強引に気持ちを突き動かされ続けながら、しかし魂の交わる快感はひどく抗いがたいものだった。
 同時に彼の心が月夜のすべてを覆い尽くしていく。
 まだ、現し世に生まれる以前に感じたことのある、暖かくて安心できる母親の胎内に還ってきたような心地好さ…。

『この子がいつか真実を知ったとき、おまえが傍で支えてやって欲しい…』

 美しい人が懇願する声に、月夜は幸せな気持ちで両手を広げた。
 自分を見下ろし微笑むその人が、まなじりから宝石のような滴をこぼす。

――どうして泣くんだ? ボクはこんなに幸せなのに…。

『おまえをこんな形で手離すことしかできない私を、どうか許しておくれ…いつか、この手にふたたび抱きしめる刻が来ることを…信じているぞ』

――あなたは誰だ。ボクの何なんだ?

 月夜の身体は己の意思とは無関係に、暖かい場所から引き離される。
 突然襲った不安におののき泣きじゃくる月夜の頭を、大きな手が触れた。
 不器用なその優しさは、別の暖かさを与えてくれる。
 それは、何度も感じたことのある温もりだった。

「月」

 突如視点が変わり、月夜はそこに、自分と同じ瞳の赤子をみつける。
 嬉々と手を伸ばすその子を抱きしめると、この上ない幸福感に包まれた。

――なぜだ…なぜボクは…。

 月夜にはもう、なにひとつ疑う余地はなかった。

――これはあなたか…羅刹。

「月…」

――そしてこの子供は…ボク。

 だから月夜は感じていたのだ。
 記憶は失っても、その温もりを身体が覚えていた。