「……そんなこと、誰から……」

 月夜から向けられた鋭利なまなざしに、イシャナのまわりの空気が鋭く冷気を帯びる。
 けれどそれに怯む様子など見せず、彼は飄々と言葉を突きつけた。

「まぁ、一応要職についとる関係上、そういった最重要事項にはきこえがいいんですわ」

 まるで緊張感のない声にも関わらず、その真意を悟らせない濃色の瞳に、月夜は一瞬呑まれそうになる。

 式とは――この世界では一般的に、それぞれ国の術者が使役する、神と魔の間にある精霊のことを云う。
 そもそもそれらを調伏するには、高い潜在能力を必要とする。
 式を使役する者は、その属性と強さに見合った力量の持ち主でなければならない。
 ゆえに術者の能力を上回る、神や魔を式とする人間は存在しない。
 さらにガルナでは、神を善、魔を悪とするため、神属性の式を操る術者を敬い、魔属性の式を操る者を厭う傾向にある。
 という訳で、その属性がなんにせよ、術者の技能は一般に表沙汰されないのが通念だ。
 そしてもう一つ、能力に長けた術者は、他にどのような理由があろうとも、君主のすぐ近くに仕える義務を負わなくてはならない。
 その栄誉に叛いた人間は、誰一人として存在しない、と云われている――。

 つまりイシャナは、月夜がその上級能力者であると云いたいのだ。