「ちょお気になりましてなぁ。月夜様がどないな場所で勉学に励んでおられたんか…まぁ、よぉくわかりましたわ」

 ガルナでは研究生という立場だが、ナーガで役人をしているとは思えない開けっ広げな態度は、逆に訝しく感じてしまう。
 彼はいったい何をしにこの国へ来たのか、なぜ国の中枢に、こうも易々と入り込んでこられたのか、月読博士となって日の浅かった頃の月夜には知るよしもなかった。
 たてまえとしてそれを知ったのは、その後間もなくである。

「ガルナには技術研究に来ただけのはずだろう。こんなところで油を売っていていいのか」

「本日のお仕事はもう終わりましたよって、ちゃんと許可はいただいてます。それより、月夜様はどないしてこちらに?」

 彼を追い払うつもりが、窮されていることに気づいた月夜は言葉をつまらせた。
 月読生の学舎と、博士の部屋は、長い廊下でつながっているが、側使となった月夜には学舎を訪れる理由がなかった。
 個人的なことを除いては。

「忘れ物をしただけだ……って、用がすんだならさっさと戻れ。私の仕事も今日はもうない。くっついていても意味はないからな」

 たしか彼の方がいくつか歳上であったはずだが、どうもそんな気がしない。
 月夜はイシャナに背を向けると、逃げるように廊下を渡って学舎から出ていった。