「……なんじゃ、そういうことか」
空を仰いだ神は、何かを見極めたように嘆息すると、ふたたび月夜の顔を見下ろし、ふわりと不敵に笑んだ。
「また逢うことになろうよ、童子。それまであやつには気を許すなよ?」
言葉の意味を理解できない月夜の前から、闇に弾けるように神は姿を眩ました。
茫然と立ち尽くす横で、式がにゃーんと啼く。
同時に闇の向こうから人の気配が近づいてきた。
「なぜここに来た…まだ足りないものでもあるのか」
その声に月夜は別の緊張を走らせた。
高揚した気持ちがどっとこみ上げる。
けれどそれを胸の内で抑え、高鳴る心音にそっと拳を握りしめた。
「――貴方を探していた。あのときなぜ姿を消した? 目醒めるまで傍にいると云った……」
勝手にこぼれでた科白に、月夜はハッと口許をおさえた。
そんなことを云うつもりではなかった。
あのときの礼を云って、式を返すだけのはずだったのに…。
「…俺を探す? なぜだ」
男はとくに気にした風もなく訊いた。
「それは…だから、そ、そうだ。あのときは世話になった…その礼が云いたかった。それから、この式を返しにきた!」
指差した式を見た男は、しばし沈黙し頭をかいた。
「…つまり、必要なかったと云うことか」
男の声に、わずかながら失望の気配を感じた月夜は、あわてて取り繕った。
「ち、ちがうっ…この式には助けられた! 本当だ!」
あわてている自分にあわてて、月夜は口を閉じた。
先刻から、どうも調子が狂う。
月夜は男の前で、本来の自分を見失っていた。
冷静さを取り戻そうと、深くひと呼吸する。
「…この式には感謝する。しかし、これは貴方のものだ。ボ…私の式ではない」
真っ直ぐに男を見上げた。
空を仰いだ神は、何かを見極めたように嘆息すると、ふたたび月夜の顔を見下ろし、ふわりと不敵に笑んだ。
「また逢うことになろうよ、童子。それまであやつには気を許すなよ?」
言葉の意味を理解できない月夜の前から、闇に弾けるように神は姿を眩ました。
茫然と立ち尽くす横で、式がにゃーんと啼く。
同時に闇の向こうから人の気配が近づいてきた。
「なぜここに来た…まだ足りないものでもあるのか」
その声に月夜は別の緊張を走らせた。
高揚した気持ちがどっとこみ上げる。
けれどそれを胸の内で抑え、高鳴る心音にそっと拳を握りしめた。
「――貴方を探していた。あのときなぜ姿を消した? 目醒めるまで傍にいると云った……」
勝手にこぼれでた科白に、月夜はハッと口許をおさえた。
そんなことを云うつもりではなかった。
あのときの礼を云って、式を返すだけのはずだったのに…。
「…俺を探す? なぜだ」
男はとくに気にした風もなく訊いた。
「それは…だから、そ、そうだ。あのときは世話になった…その礼が云いたかった。それから、この式を返しにきた!」
指差した式を見た男は、しばし沈黙し頭をかいた。
「…つまり、必要なかったと云うことか」
男の声に、わずかながら失望の気配を感じた月夜は、あわてて取り繕った。
「ち、ちがうっ…この式には助けられた! 本当だ!」
あわてている自分にあわてて、月夜は口を閉じた。
先刻から、どうも調子が狂う。
月夜は男の前で、本来の自分を見失っていた。
冷静さを取り戻そうと、深くひと呼吸する。
「…この式には感謝する。しかし、これは貴方のものだ。ボ…私の式ではない」
真っ直ぐに男を見上げた。

