「ふん…人間にしては、まともな目をしている」
月夜はアゴをつかまれ、えぐるように瞳を覗き込まれた。
「は、離せ! 何者っ」
その手を払いのけ、月夜はすばやく後ずさった。
美々しい双眸に一瞬でも気をとられ、反応が遅れたことに頬を赤らめる。
そんな月夜に対し不満げに柳眉を持ち上げたのは、宮でも滅多に逢うことのない秀麗な女人であった。
月夜はもう一度瞠目した。
陽は沈み、辺りは帳が下りたと云うのに、なぜだか女人の姿がはっきりと目に映る。
膝裏まである真っ直ぐな髪は、陽の光をうけたように輝く金糸で、鼻筋はスッと通り、唇はほどよく膨らみ艶がある。
肌は新雪の如く、身に付けている異国の装束らしき、大きく襟の開いた胸元から、柔かそうな乳房がのぞいた。
風に乗って仄甘い薫りが漂う。
「何者…? わたくしを見てわからぬとは…やはり人間は愚かじゃな」
鼻をフンと鳴らし、片肘を抱え尊大に見下ろすその瞳が金色に輝いた。
月夜はその神々しさに、まさかと息をのむ。
こんなところに現れるはずがないと知りながら、もう一方ではその奇蹟を信じかけた。
伝承ではよく、神山から現れる神の姿が描かれている。
そもそも大陸に残る国々の祖は皆、その神達だったのだ。
しかしまさかそんな、神威の眼前に自分が立ち合うなどあり得るはずもない。
かといってこの人外な優麗さはただごとではない。
「どうした? わたくしが何者か知って、言葉もなくしたか?」
神は優美な足どりで月夜に近づき、固まったその顔に手を添えた。
触れそうで触れない距離を保ち、細く美しい指が頬をすべる。
「この顔…見覚えがあるぞ。その赤い瞳も――」
云いかけた科白は、何かが空を切る音と共に途切れた。
月夜はアゴをつかまれ、えぐるように瞳を覗き込まれた。
「は、離せ! 何者っ」
その手を払いのけ、月夜はすばやく後ずさった。
美々しい双眸に一瞬でも気をとられ、反応が遅れたことに頬を赤らめる。
そんな月夜に対し不満げに柳眉を持ち上げたのは、宮でも滅多に逢うことのない秀麗な女人であった。
月夜はもう一度瞠目した。
陽は沈み、辺りは帳が下りたと云うのに、なぜだか女人の姿がはっきりと目に映る。
膝裏まである真っ直ぐな髪は、陽の光をうけたように輝く金糸で、鼻筋はスッと通り、唇はほどよく膨らみ艶がある。
肌は新雪の如く、身に付けている異国の装束らしき、大きく襟の開いた胸元から、柔かそうな乳房がのぞいた。
風に乗って仄甘い薫りが漂う。
「何者…? わたくしを見てわからぬとは…やはり人間は愚かじゃな」
鼻をフンと鳴らし、片肘を抱え尊大に見下ろすその瞳が金色に輝いた。
月夜はその神々しさに、まさかと息をのむ。
こんなところに現れるはずがないと知りながら、もう一方ではその奇蹟を信じかけた。
伝承ではよく、神山から現れる神の姿が描かれている。
そもそも大陸に残る国々の祖は皆、その神達だったのだ。
しかしまさかそんな、神威の眼前に自分が立ち合うなどあり得るはずもない。
かといってこの人外な優麗さはただごとではない。
「どうした? わたくしが何者か知って、言葉もなくしたか?」
神は優美な足どりで月夜に近づき、固まったその顔に手を添えた。
触れそうで触れない距離を保ち、細く美しい指が頬をすべる。
「この顔…見覚えがあるぞ。その赤い瞳も――」
云いかけた科白は、何かが空を切る音と共に途切れた。

