――守りたいものがあるから。
「背が伸びたな、お前」
背後に突如現れた人物がしみじみとつぶやいた。
ポンと頭に手をのせられ、慌てて振り返る月夜に口端を吊り上げてみせる。
「……雪……」
溜め息のようにもらした声は、少し震えていた。
こみあげそうになる感情を必死に抑えて、あえて怒ったように振る舞った。
「なんで……やられてないんだよっ」
なのに、彼は見透かしたような眼で月夜を見下ろした。
「それでもかまわないが、泣かれても困るしな」
「だ、誰が泣くか! 本当に腹のたつ奴だなっ」
殴りかかってきた月夜に、雪は避ける素振りもみせない。
握りしめた拳は、厚い胸板に当たり、情けない音をたてて落ちた。
――本当に、嫌な奴だ。
「なんだ。やめるのか」
うなだれた月夜をからかうように、顔を近づけてくる。
いつも余裕ぶったその態度に、ずっと翻弄されてきた。
何者も敵わない、何事にも動じない、その事に畏怖したこともある。
でも揺るぎない彼という存在は、月夜の中で唯一、なによりも信じられた。
「ずっと……云おうと思っていた」
目を逸らしたままつぶやく月夜を、彼はいつものように沈黙で見守る。
それは、月夜が生きてきた刻と同じ長さで繰り返されてきた。
ふたりが出逢うまで、そして出逢ってからも。
――そう思わずにいたのは、それが当たり前になっていたからだ。
ただ守られるだけだった自分にようやく気づかされて、そこに疑問が生まれた。
そして何かを恐れたから――。
「羅刹天……もう、私を守る必要はない。誰の命もきかなくていい……貴方は貴方のしたいようにすればいい。私に縛られる理由など……もうないのだから」
「背が伸びたな、お前」
背後に突如現れた人物がしみじみとつぶやいた。
ポンと頭に手をのせられ、慌てて振り返る月夜に口端を吊り上げてみせる。
「……雪……」
溜め息のようにもらした声は、少し震えていた。
こみあげそうになる感情を必死に抑えて、あえて怒ったように振る舞った。
「なんで……やられてないんだよっ」
なのに、彼は見透かしたような眼で月夜を見下ろした。
「それでもかまわないが、泣かれても困るしな」
「だ、誰が泣くか! 本当に腹のたつ奴だなっ」
殴りかかってきた月夜に、雪は避ける素振りもみせない。
握りしめた拳は、厚い胸板に当たり、情けない音をたてて落ちた。
――本当に、嫌な奴だ。
「なんだ。やめるのか」
うなだれた月夜をからかうように、顔を近づけてくる。
いつも余裕ぶったその態度に、ずっと翻弄されてきた。
何者も敵わない、何事にも動じない、その事に畏怖したこともある。
でも揺るぎない彼という存在は、月夜の中で唯一、なによりも信じられた。
「ずっと……云おうと思っていた」
目を逸らしたままつぶやく月夜を、彼はいつものように沈黙で見守る。
それは、月夜が生きてきた刻と同じ長さで繰り返されてきた。
ふたりが出逢うまで、そして出逢ってからも。
――そう思わずにいたのは、それが当たり前になっていたからだ。
ただ守られるだけだった自分にようやく気づかされて、そこに疑問が生まれた。
そして何かを恐れたから――。
「羅刹天……もう、私を守る必要はない。誰の命もきかなくていい……貴方は貴方のしたいようにすればいい。私に縛られる理由など……もうないのだから」

