雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「そこまでだ、帝釈天」

 いきなり、交わりかけていた魂が引き剥がされる。
 その声は憤怒に染まり、殺気さえ感じさせた。
 強引な剥奪にしばし呆然としたが、肉体の感触を取り戻すと、月夜は声の主を見上げた。

「雪……」

 なにか、とんでもない場面を見つけられたような気がして、頬がカッと熱くなる。
 帝釈天も同じように、朱をさした顔で雪を睨んだ。

「邪魔をするな、羅刹天。せっかくあとわずかじゃったというのに…」

 雪は帝釈天の不平に眼を光らせた。

「あとわずか? こいつに取り入って、なし崩しに魂を手に入れようとしたのか…」

「なにを云う、わたくしは――」

 帝釈天の釈明を無視して、雪の腕が月夜の身体を担ぎ上げた。

「おのれ羅刹天、わたくしは諦めぬぞ!」

 神の怒声はあっという間に遠ざかってしまった。
 担がれた月夜は、風と共に流れる景色を見送りながら、先刻の出来事にまだ平静を取り戻せず縮こまっていた。
 未遂とはいえ、やすやすと帝釈天との交わりを許してしまった自分を恥じていた。
 神の言葉にほだされて、その真意に気づけなかったとは、未熟もいいところだ。
 仮にも神のはしくれとして、なにも見抜けないのでは先が思いやられる。
 くちびるを噛み締めて、月夜は悔しげに嗚咽をもらした。

――また、雪の手をわずらわせてしまった。

 そのたび彼に助けられることを、月夜は激しく嫌悪した。
 大きな背中にしがみついて、ひとしきり悔やむうち、いつの間にか辺りは大木の生い茂る景色に変わっていた。

「……霊山」

 そうして、ようやく月夜は思い出す。

――そうだ。今宵はここで、雪と落ち合う約束をしていたんだった。