雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

――はっ! つい流されるところだった。

 月夜は気を取り直し、厳しい口調で答えた。

「甘えるな、お前はナーガの王になる身だぞ。なんのためにこの国に来たと思っている。なんのためにお前を――」

「月夜様」

 イシャナの真剣な眼差しがいきなり間近に迫る。

「…なにをするっ!」

 つぶれたような音がして、驚きのあまり降りおろしてしまった手の下に、彼の顔があった。
 慌ててそれをどけると、赤くなった顔を歪めイシャナが唸る。

「す、すまない。怪我はないか?」

「わかっとる……俺はまだこんなや……けど、国はちゃんと守るし、ガルナともうまくやってみせる。月夜様が望むことなら、なんでもする。せやからお願いや、俺のこと嫌わんといて?くっついて歩くんが嫌なら、遠くからでもええ。月夜様のこと、見ていたいんや……!」

 月夜は唖然とイシャナを見下ろした。
 なんとも明け透けなその態度には、さすがに月夜自身誤魔化しようもなく理解できてしまう。

「イシャナ……私は、お前を見捨てたわけでも、嫌っているわけでもない。信頼しているんだ……」

 不器用にも、必死に訴えかけようともがく姿は、どこか自分とかぶって見える。
 彼自身それをわかっているのか、それとも気づいていないのか?
 なんにせよ、イシャナは自分を慕ってくれている。
 そこに、昔の十六夜の面影も重ねていた。

――当然か。彼の魂は、今やガルナの王族にも通じている。

「だから……お前のことは、とても近く感じる。お前もそうだろう?」

 若いイシャナの両頬を包み、青緑の瞳をのぞきこむ。
 月夜のために命を投げ出した彼の想いが、どのようなものだったのかはわからないが。
 この瞳には、まだそれが強く宿っている。