雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 あのときから状況は劇的に変化し、月夜は白童の期待に応えられたことや、十六夜に少なからず貢献できることを喜ぶ一方、その急激な流れに翻弄されもした。
 調伏した際の男の存在も、そのやり方も、正規から外れているのは紛れもない事実。
 だが、それを白童に打ち明けたとき、養父は云ったのだ。

「どのようなやり方であったにせよ、誰よりも優秀にこれを成し遂げたこと、まずは誇りに思う。しかし、その男とは二度と逢ってはならぬ」

 白童が男に対し、明らかな警戒心を示したのは理解できた。
 けれど口にはしなかったが、月夜にしてみれば命の恩人であり、こうして望んだ地位を与えられた要因にもなった人物だ。
 せめてもう一度、逢って礼を云うべきだし、訊かねばならないこともある。
 それから、いまはなぜか自分の傍にいるが、本当ならこの式は彼のモノのはずだ。
 できればこれを返還し、今度は実力で調伏を果たしたい。
 そう望んだ月夜は、こうして暇をみつけては霊山を訪れていた。
 もう何度目になるだろうか、一人の男を捜すためだけに式を操り、見つからぬまま戻るたびに息苦しい想いが募った。
 自分は狡い人間だ。
 誰よりも恵まれて、高等神魔まで手にした。
 でもそれは――。

「お前か? 最近よくこの辺りをうろついている愚かな人間と云うのは…」

 不意に頭上から降ってきた声に顔をあげた。
 暗くてよく見えないが、高い木の枝に小さな人影のようなものがあった。
 月夜が目を凝らすと、その影はクツクツと笑い、次の瞬間そこから飛び降りた。

「おや、まだ童子じゃないか。こんなものを従えて、いったいどんな偏屈かと思えば…」

 いきなり隣に現れた影に顔を突きつけられ、月夜は瞠目した。
 その顔は、人間とは思えない程卓越した美貌だったのだ。