雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 ◇ ◇ ◇


 その後、雪にガルナへと送り届けられ、ナーガから同盟に同意する使者が来たのを期に、月夜は側使を辞退。
 月読のひとりとして数季を経たのち、帝が迎えた後宮の妃が懐妊。
 ガルナではじめて、神の力を受け継ぐことのない人間の子が生まれる。
 それを見届けると、ナーガとの外交も順風だったガルナから、月夜は密かに姿を消した。



「阿修羅」

 月夜の呼び掛けに、瞬時に姿を現した式が、甘えた声で啼く。
 その暗桃色の毛並みを撫でると、気持ち良さそうに頭を擦り寄せてきた。

「宮ではあまりかまってやることもできなかったけど、これからはいつでも逢えるぞ。ずっと一緒だ、お前はもうボクのものなんだから――」

 あうんと返事をする阿修羅を、月夜は力いっぱい抱き締めた。
 その温もりは、もうひとつ別の温もりを思い出させる。

――逢いたい。

 そう願えば、いつでもそれは叶えられてきた。
 離れていても、心は繋がっていた。
 ガルナを全望できる後宮の岩壁上から、咲き乱れる白い花が、宮を埋め尽くすように見えた。
 この先どれだけの刻、この景色を見続けていくのか、只人ではなくなった月夜には想像もつかない。
 しかし、十六夜の治世が続く間は、確実に見届けよう。
 月夜は遠くからでも、ガルナを見守り続けようと誓った。
 雪がそうしてくれたように。

「月……いいのか?」

 肩に触れた暖かさに、月夜はうなずいた。

「ガルナはこれからも変わっていく。帝は神の支配から解き放たれたんだ。ボクがいつまでも、ここにいるわけにはいかない。半神であるボクが…」

 阿修羅に跨がった月夜は、花弁の舞う美しい宮を眼に焼きつけて、雪と共に旅立った。
 行き先はわからない。
 けれどどこにいても、ガルナを想わぬ刻はない。
 十六夜や白童を忘れることはない。
 この世界が続く限り――。

















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