雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 すれ違い様、青緑の双眸が月夜を追いかけた。
 二人の距離が開いてなお、強い余韻を残したその眼差しに、胸の中をひどく掻き立てたられた。
 イシャナに新たな命を与えたのは自分だ。
 その彼が何を思い、何を望んだとしても、月夜にはそれを受け止め、見届ける義務がある。
 これからイシャナがどのような王となっていくのか、月夜はわずかながらに恐れを抱いた。
 それは多分、自分という存在がこの世にある限り、無くなることのないものなのかもしれない。
 漠然とした不安が、月夜の中に沸き上がった。

――須佐乃袁様の感じていたものは、これと同じだったのだろうか?

 月夜は不意に、己が魔物に運ばれていることを思い出す。
 しかもそれは、決意のもとにガルナを出てきた件の主。

「雪……もういい。その姿でいることは、人界での負荷が大きいのはわかっている」

 神の記憶は、月夜に様々な知識と理を蘇らせた。
 おかげで、頭の中には膨大な神についての情報がつまっている。
 当然、羅刹天という存在がどういうものなのかも、いまの月夜にはわかっていた。
 雪は一蹴りでナーガの街をまたぐと、町外れの人気のない場所に降りたった。
 そこで人の形をとると、下ろした月夜を見下ろす。

「俺がなんなのかわかったのなら……お前はどうしたい?」

 雪の問いに、月夜は動揺しつつも、持っていた答えを口にする。
 心臓がチクリと痛んだ。
 羅刹天という男は、醜悪な魔物として忌むべき存在とずっと思ってきた。
 だがそれは、人界で歪められた偽りの姿だった。

「貴方がなんであろうと関係ない……契約は履行された。ボクをどうするかは……貴方が決めることだ」

 たとえそれが命を奪われることであっても、月夜は須く受け入れようと心に決めていた。