雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 ある程度の予想はしていたが、まさか自分が人質の如くに扱われようとは、思い至らなかった。
 女王が月夜の素性に感づいていたのはわかっていたが、それは帝の血族という可能性を示唆するのみであったはずだ。
 公式として存在しない帝の子など、政の道具とする利点があるだろうか。
 あるいは月夜が神の子と知り、その力を利用しようと目論んでいるとするなら――。

――それこそ無意味なことだ。ボクにはなんの力もないのに。

「お言葉ですが、私はまだ、月読としても側使としても未熟な身。あまつさえ人としても、いまだできておりません。そのような者が、ナーガにとり役に立つようなことはなに一つないでしょう」

 女王の薄く笑う気配がした。

「そのように己を卑下して見せれば、われが諦めると思うたか……浅薄な子やな」

――やっぱり見抜かれるか。

 月夜は舌打ちしかけた口をそっと閉じた。

「まぁ……ええ。そないすぐに望む答えが返るという浅薄は、さすがに持ち合わせておらん。しかし首を縦にしない限り、ガルナとの同盟は……ない」

「そんな……」

 立ち上がった女王の長衣が翻る。
 月夜はなんとかその脚を止めようと頭をめぐらすが、すべてがガルナにとって不利な状況でしかないように思えた。

――こうなれば、魔物との契約のことで納得してもらうしか…。

「お待ちください!」

 立ち上がりかけた月夜の後ろで、叫び声がきこえた。
 女王も何事かと脚を止め、こちらを振り返る。
 すぐに数名の臣が、血相を変え謁見の間へと入った。

「なにごとや?」

 臣のうちの一人が女王に耳打ちすると、その顔にも驚愕が見て取れた。
 月夜は戦慄を覚え、その様子に目を瞠る。

――いったい何が起こったんだ?