雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

「そうか…魔物が国を襲うなど、ゾッとせん…ナーガにとってもけっして他人事やない。神の寝所も相手が魔物では、守護にてこずるとみえる」

 女王の、腹を探るような云いまわしに月夜は緊張を高める。

「そのために、お願い申し上げたく参上いたしました」

「そうやったな…云うてみよ。仮にもナーガを救ってくれた英雄や。望みを訊かぬではバチが当たる」

 低頭したままさらに頭を下げ、月夜は渇いた喉を鳴らした。

「我が国ガルナと…同盟を結んでいただきたいのです」

 逡巡したような間のあと、女王の高笑いが響いた。

「月夜は欲がないのう。それがわざわざ独りでここまで来た理由か? 同盟? 神の寝所との外交など、望むところや。そもそも先の月読最高位、白童ともそのつもりでおったのや、断る道理もない」

 思わず顔をあげた月夜は、慌てて下を向いた。

「白童様と…それは本当ですか?」

 白童が、こうなることを見越していたと云うのか?
 神が滅び、国が変わっていくのを止めることはできないと…。
 不意に衣擦れがして、玉座から気配が近づいてくる。

「え…っ」

 突然のことに反応しきれず、下げた目線の高さに女王の足元が迫るのを、呆然と見つめていた。
 その裾が眼前でひらりと止まる。
 上等な絹のなめらかな輝きと、重ねた上衣の計算された色づかい。
 鼓動が激しく鼓膜を叩いた。

「あの方は素晴らしい方やった……同盟を結べば、ナーガに呼んでもっと話ができる思うてたのや。それも叶わぬことになってしもうたが……」

 月夜はドキリとした。
 女王が膝を折り、月夜の顔に手をかけたのだ。
 ゆっくりとあごを持ち上げられ、なすすべもなく女王の瞳に晒されていく。
 今にも心臓が口から飛び出そうだった。