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それから月夜が目を醒ましたのは、6の月が昇りはじめた頃だった。
気がつくと、いつのまに戻ってきたのかそこは千年木の小屋で、月夜は寝台の上で重い身体を起こした。
完全に気を失う直前に聴いた、あの男の言葉を思いだし辺りを見回したが、自分の他に誰の気配もない。
心なしか落胆したことをすぐに思い直し、月夜はすくと立ち上がった。
まだ少しふらつきはするが、歩けないほどではない。
そのまま外へと続く扉の前まで行くと、何も考えずにそれを開いた。
「うわ…っ!」
驚いた月夜はその場に尻をついてしまった。
扉のすぐそこに、馬よりも大きな犬がこちらを向いてお座りしていたのだ。
唖然と見上げる月夜の顔を、キョトンとして見下ろすそれは、よく見れば犬ではなくあの精霊だった。
「な…なぜこんなところに…いや、それより、調伏…調伏を…っ」
「にゃん!」
精霊が、その身体からは想像もつかないほど恐ろしく可愛い声で啼いた。
「………………へ?」
呆気にとられた月夜は、大きく見開いた瞳に映るモノが、ムクと立ち上がり鼻息荒くすり寄ってくるのを、ピクリともせず見過ごした。
べろんと分厚い舌に顔を舐められ、危うくまた意識を手放しそうになる。
なにがなんだか、頭の中は真っ白に燃え尽きていた。
「な…な…なんだこれはーーーっ!」
現在――
――そうだ。それからボクは、定められた手順を無視して手に入れた神の式と、調伏もせずに手に入れた魔の式の二体を伴い学舎へと戻った。
月読の最終試練で高等神魔両体を、一度に式とした前代未聞の出来事に、月読寮は一時騒然となったが、月読最高位の鶴の一声でそれは早くも鎮静化したのだった。

