「いやな?」
無邪気に繰り返す舌ったらずな言葉に、思わず吹き出しそうになる。
「イシャナ……お前なのか?」
「んん?」
寝台をよじよじとのぼって、こちらに近づいてくる。
月夜の顔をのぞきこむ不思議そうな瞳は、闇のなかで人懐こい輝きをみせた。
「申し訳ありまへんなぁ。まさか月読殿のお部屋にいてるやなんて……さぞ驚かれはったでしょう」
側仕えのキノエは、部屋から消えたイシャナを探して、宮中を歩きまわっていたらしい。
普段からイシャナの世話は彼女の妹キノトがしているということで、なにかあるたびに彼女もかり出されるのだ。
「いつもこんな風に、いなくなることが?」
思わずそう訊いてしまう。
「こないなことはじめてです。まさかひとりで外に出るやなんて…」
キノエの顔色が青ざめる。
本当に驚いたのだろう。
月夜の異変に気づき、部屋に飛び込んできた刻のキノエは、見るからに取り乱していた。
「ホンマお騒がせしてしもて。さ、御子様、こちらへ」
イシャナは先刻から、月夜にしがみついたまま、離れようとしない。
キノエの伸ばした手を無視して、ますますそっぽを向いた。
「御子様……」
――御子、か。
「その……ここでは誰か、イシャナを名前で呼ぶ方はいらっしゃらないのですか」
キノエは刹那、質問の意味をはかりかねたようだが、すぐに穏やかな口調で答えた。
「御子様を御名で呼ばれるのは王だけです。その王も滅多に御子様とはお逢いになりまへんよって…」
「なぜです? 以前お逢いした刻は、自分の手で育てるとおっしゃった。なのに――」
キノエが顔を曇らせるのを見て、月夜は言葉をつまらせた。
無邪気に繰り返す舌ったらずな言葉に、思わず吹き出しそうになる。
「イシャナ……お前なのか?」
「んん?」
寝台をよじよじとのぼって、こちらに近づいてくる。
月夜の顔をのぞきこむ不思議そうな瞳は、闇のなかで人懐こい輝きをみせた。
「申し訳ありまへんなぁ。まさか月読殿のお部屋にいてるやなんて……さぞ驚かれはったでしょう」
側仕えのキノエは、部屋から消えたイシャナを探して、宮中を歩きまわっていたらしい。
普段からイシャナの世話は彼女の妹キノトがしているということで、なにかあるたびに彼女もかり出されるのだ。
「いつもこんな風に、いなくなることが?」
思わずそう訊いてしまう。
「こないなことはじめてです。まさかひとりで外に出るやなんて…」
キノエの顔色が青ざめる。
本当に驚いたのだろう。
月夜の異変に気づき、部屋に飛び込んできた刻のキノエは、見るからに取り乱していた。
「ホンマお騒がせしてしもて。さ、御子様、こちらへ」
イシャナは先刻から、月夜にしがみついたまま、離れようとしない。
キノエの伸ばした手を無視して、ますますそっぽを向いた。
「御子様……」
――御子、か。
「その……ここでは誰か、イシャナを名前で呼ぶ方はいらっしゃらないのですか」
キノエは刹那、質問の意味をはかりかねたようだが、すぐに穏やかな口調で答えた。
「御子様を御名で呼ばれるのは王だけです。その王も滅多に御子様とはお逢いになりまへんよって…」
「なぜです? 以前お逢いした刻は、自分の手で育てるとおっしゃった。なのに――」
キノエが顔を曇らせるのを見て、月夜は言葉をつまらせた。

