雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 落ち着いて部屋を見渡せば、室内もまた豪奢な造りで、天蓋付きの大きな寝台と贅沢に細工された長椅子、繊細に織り込まれた華美な敷物、壁一面に幾何学模様の不可思議な絵が飾られている。
 それらにあてられ、なにやら身体から力が抜けた。
 見慣れないものを見続けるのも、体力がいるらしい。
 月夜はあまりの疲労に、着替えることもせず寝台へ横になった。
 すぐに睡魔が襲ってくる。
 しかしそれに抗おうとは思わなかった。
 本当に疲れていた。
 ほんの少しでいい。
 またすぐにいろんなことが、自分を眠りから遠ざけるのだろうから。
 いまだけは……。

「……ん……」

 夢うつつに寝返りをうった月夜は、身体がフワリと浮いたような気がした。
 覚えのある匂いが鼻腔を刺激する。
 それは月夜に安心感をもたらした。
 背中に感じた温かさがじんわりと胸にしみた。

――……誰?

 薄く開いたまぶたから、傍にいる人物を確かめようと焦点をさだめる。
 だが辺りは暗く、人影さえにじんで、はっきりとは見えない。
 月夜はさらに目を凝らした。

「……ん?」

 暗闇からいきなり、白い小さな顔がずいっと現れた。

「うわ…っ!」

 驚いて飛び起きた月夜は、勢い余って後ろに倒れる。

「きゃきゃっ」

 その様子が可笑しかったのか、幼い声が鈴玉を転がすように笑う。

「な、何者だ!」

 慌てて寝台の向こう側に身を隠して、反対側の侵入者を威嚇した。

「くふふっ」

 続く笑い声に警戒はしたが、愉しげなそれに敵意はない。
 こんなところに童子がいるのもおかしいが、魔物や精霊というわけでもないようだ。
 月夜はもうひとつの可能性に思い至った。

「……イシャナか?」