雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

 月夜は気恥ずかしさに顔をプルプルとふった。

「う、麗しい?……この王宮の女性は確かに皆美しいです。ガルナの宮中などそれはもう殺伐としていて……」

 側仕えが口許を隠して忍び笑っている。
 月夜は自分が口にした訳のわからない云い訳に肩を落とした。

「謙虚なお方ですなぁ…ホンマ、お若いのにようできてはって」

 裏門から続く敷地をしばし歩くと、内門の向こうに、宮で建てられるそれとは、まるきり様式の違う王城が見えてくる。
 ガルナの建物といえば、縦より横に大きい造りで、宮の敷地はそれ以上に広く、部屋数も多いので、宮に上がったばかりの者などは必ず迷う。
 見ればナーガの王宮も部屋数は多いようだが、頑丈そうな高い建物が密集しており、云ってみれば無駄がないように思える。
 その強固さは、要塞とも呼べそうだ。

「あの、それでこれからすぐお逢いできるのでしょうか? その……」

「月読殿には部屋を用意させとりますよって。しばらくはゆっくり旅の疲れを落としてもろて、明朝一番にお逢いすると…」

「は……そう、ですか。承知しました」

――そうだよな。当然。

 月夜は一気に全身の緊張を解いた。
 どうやら思っていたよりも、そうとう気構えていたようだ。
 部屋に案内された途端、疲れがどっと押し寄せた。

――叉邏朱と一日空を飛んでいたんだ。疲れて当たり前……前の刻は、こんなに感じてなかった気がするのに。

 想起してみれば、そこには雪の姿があった。
 イシャナを連れて旅立った刻、無理矢理ついてきた彼に始終護衛されるかたちになった。
 おかげでイシャナを無事にナーガへ送り届けられ、すぐにガルナへも戻ってこられたのだが。

――まぁ…道中いろいろあったけどな。

 月夜は深く息を吐いた。